💡この記事で分かること
- 国の計画が定義するAI人材5類型と、中小企業が本当に必要とする人材像
- 「AIに詳しい人」より「自社の業務を説明できる人」が先に要る理由
- 沖縄の採用市場が構造的に薄く、リモート普及で県外と競合している現状
- 業務経験の長い社員ほど、AIを持たせたときの伸びしろが大きくなる関係
- 採用・育成・外部活用を判断するときに見るべき軸
一つ、思考実験をさせてください。
仮に、AIに非常に詳しい人材を採用できたとします。技術的な知識は申し分なく、開発の経験も豊富。給与条件も折り合いがついた。理想的な採用です。
その人が入社した初日、何ができるでしょうか。
おそらく、まだ何もできません。自社の業務を知らないからです。どの工程に時間がかかっているのか、なぜその手順になっているのか、例外がどこで発生するのか。それがわからなければ、どこにAIを効かせるべきかを判断できません。
つまり最初にやることは、業務を教わることです。そして教える側には、業務を説明できる人が必要になります。
「AI人材が足りない」という言葉で語られている問題の中には、実はこの構造が隠れていることがあります。
国は、AI人材を5つに分けている
2026年7月14日に閣議決定された第Ⅱ期人工知能基本計画では、AIに関わる人材を5つの類型に整理しています。第3章第4節とその脚注に記載されているものです。
| 類型 | 定義(計画の記述より) |
|---|---|
| AI適正活用人材 | 基礎的な知見・知識として最低限のリテラシーを身につけ、適正な形でAIを利活用できる人材。全ての国民が目指すべきもの |
| AI研究開発人材 | AIの研究開発に係る研究者やエンジニア等。AIに関する深い理解・洞察を有する高度専門人材 |
| AI実装人材 | 汎用的なAIソリューションでなく、現場に適合したAIソリューションを提供する者。産業・行政の現場とAIの双方を理解することが求められる |
| AIガバナンス人材 | 安全・安心で信頼できるAIを開発・活用するためのルールや仕組み等を整備・運用する人材 |
| AIイノベーション人材 | AIを利活用して経済・社会構造の変革や付加価値の創出を行う人材 |
この整理を自社に当てはめると、状況が少し違って見えてきます。
中小企業が必要としているのは、主にAI適正活用人材とAI実装人材です。前者は全社員が目指すもので、要するに「使える状態」になっていること。後者が中核を担います。
一方、AI研究開発人材——モデルそのものを研究・開発する高度専門人材は、多くの中小企業にとって必要ではありません。ところが「AI人材」という言葉でイメージされるのは、たいていこちらです。
採ろうとしている人材像と、自社が必要としている人材像が食い違っている。 「採れない」と感じているとき、この可能性は一度確認する価値があります。
「現場とAIの双方を理解する」の意味
注目したいのは、AI実装人材の定義です。
産業・行政の現場とAIの双方を理解することが求められる
「AIを理解している」だけでは足りない、と国が明記しています。現場を理解していることが、同じ重みで並んでいます。
これは実務の感覚とよく一致します。AIを業務に組み込むとき、難しいのは技術の実装よりも、何をつくるべきかを決める部分です。
- どの業務が対象になるのか
- その業務のどこまでを任せ、どこから人が判断するのか
- 例外はどのくらいの頻度で発生するのか
- 現行の手順のうち、変えてよいものと変えられないものはどれか
これらは技術の問題ではありません。業務の問題です。そして業務を知っているのは、社内の人です。
もう一つ、見落とされやすいことがあります。業務を知っている人が、それを説明できるとは限らないという点です。
長く担当している人ほど、手順が身体に入っています。毎日やっていることを、順を追って言葉にする機会は普段ありません。そのため「どうやっているんですか」と聞かれても、すぐには出てこない。「まあ、見ればわかるので」という答えになります。
これは能力の問題ではなく、言語化する機会がなかっただけです。外から質問されて初めて、自分が何を見て何を判断していたかが整理される。この過程を経ないと、業務は渡せる形になりません。
ここで冒頭の思考実験に戻ります。AIに詳しい人を採用しても、この部分は埋まりません。埋まるのは技術側だけです。業務側を説明できる人がいなければ、優秀な技術者ほど手持ち無沙汰になります。
逆に言えば、業務を説明できる人が社内にいるなら、技術側は必ずしも社内に抱えなくても成立する可能性があります。ここが、選択肢を考えるうえでの分岐点になります。
二つを足すなら、どちらから足すほうが速いか
この構図は、育成を考えるときにも効いてきます。
「業務を知っている人にAIを覚えてもらう」のと、「AIを知っている人に業務を覚えてもらう」のと、どちらが速いか。実務の感覚では、前者のほうが速いことが多いと感じています。
理由は二つあります。一つは、AIの扱いは体系的な知識の量よりも、実際に触った回数で伸びる性質が強いこと。もう一つは、業務の理解のほうが、外から短期間で得るのが難しいことです。取引先ごとの事情、過去の経緯、なぜその手順になっているのかといった知識は、社内に何年もいて初めて溜まります。
この見方に立つと、社内での評価が少し変わってきます。業務経験が長い人ほど、AIを持たせたときの伸びしろが大きいという関係になるからです。新しい道具は若手のほうが早く覚えるという見立ては、操作の習得については当たっていますが、成果の大きさは別の要因で決まります。
念のため申し添えると、これは「若手には向かない」という話ではありません。判断の材料が社内に溜まっているかどうかの問題であり、年齢そのものの問題ではないからです。ただ、「AIに詳しくないから自分には無理だ」と考えているベテランがいるなら、その前提は一度確認してみる価値があります。
沖縄の採用市場で起きていること
そのうえで、県内の採用環境を確認しておきます。
まず、全国的な前提から。IPA(情報処理推進機構)の調査では、DXを推進する人材の不足を訴える国内企業は8割を超えるとされています。これは特定地域の話ではありません。どこも採れていないというのが実情です。
「県内だから採れない」と考えていると、対策が採用活動の強化に向かいます。ただ全国的に不足しているのであれば、条件を上げても競争が激化するだけ、という局面もあり得ます。
そのうえで、県内には固有の事情が加わります。リモートワークの普及です。
以前であれば、県内在住のIT人材が転職を考えるとき、選択肢は県内企業に限られていました。距離が採用の防波堤になっていたわけです。ところが現在は、県内に住んだまま県外・国外の企業に勤めることが現実的な選択肢になっています。
つまり、地理的な距離が守っていた採用環境が薄くなっている。この構図は、事業の競争環境で起きていることと同じです。給与水準の高い地域の企業と、同じ人材を取り合う状況が生まれています。
一方で、明るい材料もあります。県内の育成環境は、この数年で明確に整ってきました。沖縄県はデジタル人材育成の方針を公表しており、県内で受講できるDX・生成AIの講座や研修も複数実施されています。商工会議所や金融機関、支援機関が主催するものを含めれば、学ぶ機会は珍しいものではなくなりました。
「県内に学ぶ場がない」という前提は、すでに事実として古くなっています。
ただし、ここには区別が必要です。研修で身につくのは主にリテラシーです。 つまりAI適正活用人材の部分。これは全社員に広げる価値がある、有効な投資です。
一方で、AI実装人材に求められる「自社の業務を分解し、どこに何を効かせるかを設計する力」は、研修だけでは身につきません。自社の業務でしか練習できないからです。ここは現場で育てるしかない領域です。
そのため、研修に人を送る際は、戻ってきた後に使う場が用意されているかをあわせて確認しておくと、投資が回収されやすくなります。
この領域は、学んだ量より触った回数で差がつきます。半日の研修で得た内容も、翌週から自分の担当業務で毎日使えば定着しますが、使う場がなければ数週間で薄れます。受講後に「どの業務で、いつから使ってみるか」を先に決めておくだけで、結果が変わります。
もう一点、育成を考えるうえで確認しておきたいことがあります。社員が業務で使ってよい環境が、実際に用意されているかです。研修で学んだ手順が、社内の端末では試せない、あるいは使ってよいかどうかがはっきりしていない、という状態は珍しくありません。この場合、研修費用は支出されているのに、練習量はゼロのままになります。社内での扱いをどう決めるかについては、別の記事で扱っています。
採用・育成・外部活用をどう判断するか
選択肢は3つあります。どれが正解ということはなく、条件によって適したものが変わります。
採用が向いている場合
継続的にAI活用を進める見通しがあり、社内に技術を蓄積したい場合です。1回きりの導入ではなく、業務ごとに順次広げていく構想があるなら、社内に人がいる意味は大きくなります。
ただし前提として、その人に指示を出せる人が社内にいる必要があります。採用した人に「何をつくるか」まで丸ごと任せる形にすると、業務理解の不足がそのまま成果物に反映されます。
育成が向いている場合
自社の業務をよく理解している社員がいて、その人に技術的な素養を足していく形です。順序としては、こちらのほうが理にかなっています。業務理解を後から足すより、技術を後から足すほうが現実的だからです。
時間はかかります。ただ、その時間は業務の言語化にも使われるため、無駄になりにくい投資でもあります。
外部と組むことが向いている場合
自社に業務を説明できる人がいて、技術側だけを補いたい場合です。特に、最初の1つ目をつくる段階では、外部の力を借りて型をつくり、その過程で社内に理解を蓄積するという進め方があります。
このとき重要なのは、外部との関わり方です。仕様書だけを渡して発注する形をとると、業務理解の欠落がそのまま成果物に反映されます。業務を理解する工程を、外部側が担うのかどうか。 ここで結果が大きく変わります。
現場に入って業務を見ながらつくる、という進め方をとる場合、社内に必要なのは「技術がわかる人」ではなく「業務を説明できる人」で足ります。この違いは、判断の際に確認しておく価値があります。
外部の相手を見極める観点も、一つだけ挙げておきます。自分の会社の業務で、日常的に使っているかどうかです。
この領域は情報の入れ替わりが速く、解説する立場と実際に使う立場が乖離しやすいという事情があります。最新の動向に詳しいことと、自社の業務に組み込んで運用まで持っていけることは、別の能力です。前者だけを確かめて発注すると、動くものは出てくるものの、使われない、という結果になりがちです。
確認は難しくありません。「御社では、社内のどの業務で使っていますか」と尋ねて、具体的な業務名と、続いている期間が返ってくるかどうか。それだけで、かなりの部分が判別できます。
もっとも、これは相手の業種や事業規模によって当てはまり方が変わります。取引の実績や、業務を聞き取る工程を持っているかどうかとあわせて、総合的にご判断ください。
中小企業には、この論点で有利な条件がある
ここで一つ、県内企業の構造的な強みに触れておきます。
多くの中小企業では、経営者が現場に深く関わっています。数字も現場も、経営者の頭の中にある。これは属人化という文脈では課題として語られますが、AI活用の初期段階では明確な強みです。
大企業では、現場を知る人と投資を決める人が分かれています。そのため業務を分解する段階で、部門間の調整に時間がかかります。中小企業にはその工程がありません。業務を説明できる人と、決められる人が同じであることが多いからです。
ただし、これには条件があります。経営者自身が最初の設計に関与することです。
AI導入は「詳しい担当者に任せる」形にしたくなる領域です。ただ、何のためにやるのか、どこまで任せてどこから人が判断するのか。この部分は経営判断であり、委譲できません。技術の選定は任せられますが、目的の設定は任せられない、という切り分けになります。
現場から声が上がったときの扱いにも、同じことが言えます。若手が「これは使えます」と持ってきた提案が、そのままでは進まないことがよくあります。理由は提案の質ではなく、業務の進め方を変える権限が、提案した側にないためです。
この種の変更は、上から決めたほうが速く通ります。 中小企業ではその距離が短いぶん、経営者が一度自分で触ってみるかどうかが、そのまま進み方の差になります。細かい操作を覚える必要はありません。どこまでできて、どこから怪しいのかという感触を、自分の手で一度確かめておく。それだけで、投資の規模も、任せる範囲も判断できるようになります。
まとめ
「AI人材が採れない」という課題の中身を分解すると、別の問題が見えてくることがあります。整理します。
- 国はAI人材を5類型に整理しており、中小企業に必要なのは主に「AI適正活用人材」と「AI実装人材」
- AI実装人材の定義には「現場とAIの双方を理解する」と明記されている
- 難しいのは技術の実装ではなく、何をつくるべきかを決める部分。ここは業務側の知識が要る
- DX人材の不足は全国的な状況であり、「県内だから採れない」わけではない
- リモート普及により、県内在住者をめぐる競争は県外企業とのあいだで起きている
- 県内の育成環境は整ってきたが、研修で身につくのは主にリテラシー。設計する力は自社の業務でしか育たない
- 研修は、戻ってきた後に使う場があるかどうかで結果が変わる。学んだ量より触った回数で差がつく
- 業務経験の長い人にAIを足すほうが、AIに詳しい人に業務を覚えてもらうより速いことが多い
- 採用する場合は指示を出せる人が社内に要る。外部と組む場合は、相手が自社の業務で日常的に使っているかを確認する
- 採用・育成・外部活用のどれが適するかは、社内に「業務を説明できる人」がいるかどうかで変わる
最初に確認すべきは、AIに詳しい人がいるかどうかではありません。自社の業務を、外部の人に説明できる人がいるかどうかです。そこが出発点になります。
本記事は2026年8月時点の情報にもとづいています。引用した第Ⅱ期人工知能基本計画は令和8年7月14日に閣議決定されたもので、同計画は当面毎年改定される予定です。県内の人材育成事業・講座の実施状況や内容は変更される場合がありますので、詳細は各実施団体の最新情報をご確認ください。
【次のステップ】
採用と外部活用のどちらが現実的かを一度整理したい方へ。社内に業務を説明できる人がいれば、技術側は外から補うという選択肢があります。現場に入って業務を理解しながら開発を進める進め方について、こちらでご紹介しています。
【あわせて読みたい】
安心して活用を広げる進め方について、関連記事もあわせてご覧ください。