施策より先に設計が必要——。
この認識を持った経営者から、次のような問いが浮かぶことがあります。「では、その”設計”とは具体的に何を決めることなのか」。
施策を止めて考えようとしている。でも何を考えればよいのかがわからない。この記事では、その問いに一つの枠組みを渡したいと思います。完全な答えではありません。「施策の前に答えるべき問いはこれだ」という輪郭を示すことが、この記事の役割です。
💡この記事で分かること
- 施策の前に答えるべき「誰に・何を・なぜ選ばれるか」という3つの問いの枠組み
- 3つの問いに答えないまま施策を選ぶことが手応えのなさの根本原因になる理由
- 問いに答えることで施策が「目的」から「道具」に変わる構造
- 沖縄でも「設計から入る」という専門的な支援の形があること
「設計が先」はわかった。では設計とは何を決めることなのか
「まず戦略設計が先」という言葉を聞くことがあります。しかしこの「設計」という言葉は、指すものが人によって異なり、しばしばあいまいに使われます。
「ターゲットを絞る」「差別化を考える」「ブランドイメージを整える」——どれも設計の要素として挙げられますが、何から始めてどの順番で考えるかが見えないと、設計しようとすること自体が止まってしまいます。
ここでは、「施策の前に答えるべき問い」として、最小限の枠組みを整理します。
「誰のどんな状況で、自社が頭に浮かぶか」——設計の起点となる問い
設計の出発点として有効なのは、「顧客の状況から考える」という視点です。
人が企業や店舗に問い合わせをするとき、その手前には必ず何らかの「状況」があります。困り事が起きた。決断を迫られた。何かを調べていた。その状況の中で「そういえばあの会社があった」という記憶の想起が生まれ、問い合わせへとつながる。
設計とは、この「想起」を意図的に作ることです。「どんな状況に直面した顧客の頭の中で、自社が最初に浮かぶ存在になるか」——この問いに答えることが設計の起点になります。
【マーケティング理論の視点】
マーケティング研究者バイロン・シャープは、顧客が問い合わせを検討するきっかけとなる「状況・文脈」を「カテゴリーエントリーポイント(CEP)」と定義し、ブランドはこのCEPと結びついた記憶(メンタルアベイラビリティ)を広く構築することが重要だと主張しています。
「良い商品を作れば選ばれる」という前提ではなく、「誰のどんな状況(CEP)で自社が頭に浮かぶか」を先に設計することが集客の土台になる——この知見が、施策の前に設計が必要な理由を理論的に裏づけます。
この起点から、三つの問いが導かれます。
問い① 誰に届けるか
自社の価値を最も必要としている人は、どんな状況にいるのか。業種・規模・状況・抱えている困り事——「誰に届くか」が定まらないと、施策は方向を持てません。「誰でも」「幅広く」という答えは、届け方を絞れないまま発信し続けることにつながります。
問い② 何を届けるか
その人の状況に対して、自社が届けられる価値は何か。「良いサービス」「高品質」という言葉ではなく、「この状況にいる人にとって、この問題への答えとして何が届くか」として言語化できるかどうかが問われます。価値が言語化されていなければ、何をどれだけ発信しても受け取り手の頭の中には残りにくい。
問い③ なぜ選ばれるか
同じ価値を届けようとしている選択肢の中で、なぜ自社を選んでもらえるのか。「経験が豊富だから」「丁寧だから」という感覚的な答えではなく、選択の根拠として機能する何かを持てているかどうかが、設計の深度を決めます。
この三つの問いへの答えを持つことが、施策の前に行う「設計」の中核です。
問いに答えることで、施策は「目的」から「道具」に変わる
三つの問いに答えが出ると、施策の選び方が変わります。
「SNSをやるべきか、広告を出すべきか」という問いから始まっていた判断が、「①誰に②何を届けるための施策として、③なぜ選ばれるかを伝えるために、SNSが最も適切かどうか」という判断に変わる。施策はその判断の後にあるものとして機能するようになります。
逆に言えば、三つの問いへの答えを持たないまま施策を選ぶとき、施策は「手段」ではなく「目的」になります。SNSをやること、広告を出すことが目標になる。施策を変えることが改善になる。成果ではなく、施策の継続が評価対象になる。
この構造から抜け出すための入口が、三つの問いへの回答です。
沖縄でも「設計から入る」という選択肢がある
沖縄では、「税理士に相談する」「社労士に相談する」「補助金コンサルタントに相談する」という選択肢は、経営者の行動リストの中に自然に入っています。こうした専門家たちは、それぞれの領域で経営者を支えています。
一方、「誰に・何を・なぜ届けるかという問いを一緒に整理してくれる専門家」という選択肢は、多くの経営者の認識の中にまだ入っていません。そうした役割を担う専門家がいることを知らない、あるいは「そういう相談ができる場がある」という情報に辿り着けていないという状況が続いています。
沖縄でも、施策の前段階——三つの問いに答えるプロセスを、経営者一人で抱えるのではなく、専門的な対話の中で進めるという支援の形があります。補助金コンサルタントや税理士が担う領域とは異なる、設計の入口から一緒に入るという選択肢です。
施策の前に決めることがある、という認識を持ったとき、次の一歩は「三つの問いに自分なりの言葉で答えてみること」から始まります。
「誰に届けたいか」「何を届けたいか」「なぜ選ばれるか」——この三つを、今の自社の言葉で一度書き出してみることが、設計の入口になります。
ただ、この問いへの答えを自社だけで言語化するのは難しい場合がほとんどです。答えが見えているようで、言語化しようとすると止まる。書き出してみると、整合性が取れていないことに気づく。そのプロセスを一緒に進める場が、沖縄にもあります。
「設計から動く」という順序を、一度試してみてください。
【次のステップ】
“誰に・何を・なぜ”を整理するための考え方を、エビデンスベースでまとめた資料です。

【著者プロフィール】
渡辺奎聖 Watanabe Keisei
・ 中小企業診断士(経済産業大臣登録)
・ 医業経営コンサルタント
・ 上級ウェブ解析士
「“沖縄発”のブランドを時代を切り開くシンボルに」を信条に、エビデンスに基づくマーケティングで地域経済の持続可能な成長を支援します。
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