沖縄の食品・飲料メーカーの方とお話ししていると、同じ言葉を何度も聞きます。「うちの商品は、食べた人・飲んだ人からは評判がいいんです。それなのに、売上が思うように伸びない」。

これは気のせいでも、担当者の力不足でもありません。私たちが県内の4つのカテゴリー——沖縄料理レトルト、量販店向けの沖縄そば、ローカルファストフード、泡盛——で実施したブランド調査は、この「評判はいいのに伸びない」という感覚に、はっきりした構造があることを示していました。この記事では、その共通構造を4カテゴリーを横断して整理します。

💡この記事で分かること

  • 「一度買えば満足されるのに売上が伸びない」という現象が起きる構造的な理由
  • 問題が「知名度」でも「商品力」でもなく、”買う瞬間に思い出されない”ことにある仕組み
  • 沖縄の地元ブランドがこの壁に共通して直面する背景
  • 自社が次に整理すべき問いは何か

リピート率は高い。それなのに伸びない、という矛盾

まず、調査で共通して見えた事実から始めます。

4つのカテゴリーのどれを見ても、一度購入した人が再び購入する割合——リピート率は、非常に高い水準にありました。カテゴリーによって差はありますが、おおむね8割前後。つまり「一度買ってもらえれば、その多くが満足し、また買ってくれる」商品が並んでいるということです。さらに、買った人が他人に勧める割合(推奨率)も高い。商品そのものの力は、じゅうぶんにある。

それなら、なぜ売上が伸び悩むのでしょうか。

答えは、その手前にありました。「一度買ってもらう」ところに、人が来ていないのです。もう少し正確に言えば、多くの消費者は、その商品を知ってはいる。けれども、実際に「買おう」と思ったその瞬間に、その商品が頭に浮かんでいない

調査では、ブランドを「知っているか」を尋ねると多くの人が「知っている」と答えるのに、「このカテゴリーで思いつくものは?」と自由に挙げてもらうと、名前がほとんど出てこない——という断層が、4カテゴリーすべてで見られました。知名度と、買う瞬間の想起。この二つの間に、深い溝がある。

この構造を、4カテゴリーを横断して整理すると、次のような共通の姿が浮かびます。

調査で見た指標4カテゴリーに共通してみられた傾向
リピート率(一度買った人が再び買う割合)いずれも高水準(おおむね7〜9割前後)
推奨率(買った人が他人に勧める割合)高い
助成想起(名前を挙げれば「知っている」割合)一定程度ある
純粋想起(自由に「思いつく」割合)極端に低いブランドが多い

※4カテゴリー(沖縄料理レトルト・沖縄そば・ローカルファストフード・泡盛)で当社が実施した消費者調査(各カテゴリーN=400)でみられた共通傾向。特定ブランドの数値ではなく、カテゴリーを横断した構造として示しています。回答者は原則として沖縄県内在住者ですが、ローカルファストフードのみ「過去3年以内に沖縄を訪れた県外在住者」を対象としています。

「一度買えば満足され、また買われ、人にも勧められる。それなのに、買う瞬間には思い出されない」。数字の上でも、商品の力と想起の弱さが、はっきり食い違っているのです。

【マーケティング理論の視点】

マーケティング研究者バイロン・シャープは、ブランドが選ばれるかどうかは「メンタル・アベイラビリティ(思い出してもらいやすさ)」に大きく左右されると論じています。消費者は買う瞬間、頭に浮かんだ少数の選択肢の中からしか選ばない、という知見です。

つまり「知られていること」と「買う瞬間に思い出されること」は別の現象です。前者があっても後者がなければ、選択の土俵にすら乗れません。「評判はいいのに伸びない」の正体は、多くの場合ここにあります。

「知っている」と「思い出す」は、まったく別のこと

この違いは、私たちの日常を振り返るとよくわかります。

たとえば、あなたはある泡盛の銘柄を「名前は知っている」かもしれません。けれど、居酒屋で「今日は何を飲もうか」と考えたその瞬間、あるいはスーパーの棚の前で手を伸ばすその瞬間に、その銘柄が頭に浮かぶでしょうか。浮かばなければ、どれほど知られていても、その一杯・その一本は別のブランドに流れていきます。

商品の良し悪しが問われるのは、選ばれて、買われて、口にしてもらったの話です。その前の「思い出される」という関門を通過できなければ、良さを証明する機会そのものが訪れない。調査が示していたのは、沖縄の地元ブランドの多くが、この関門の前で足踏みしているという事実でした。

しかも、ここには順番があります。「思い出される」より前に、そもそも「買える場所にある(店頭に並んでいる、来店できる場所にある)」ことが前提になります。この二つ——買える状態と、思い出される状態——が揃って初めて、あの高いリピート率が売上として実を結びます。逆に言えば、商品力という最後のピースがすでに手元にあるのに、その手前の二つが欠けているために活かせていない、というのが共通の構図でした。

なぜ、選ばれる「理由」が育たないのか

もう一つ、4カテゴリーに共通していたことがあります。それは、消費者が商品を選ぶとき、価格や基本的な品質——「失敗しない最低条件」で判断している、という傾向です。

調査でどのブランドが評価されているかを見ると、上位に来るのは「価格が手頃」「味・品質が一定水準」といった、そのカテゴリーなら当然満たしていてほしい項目でした。逆に、各ブランドならではの独自性——「このブランドだから選ぶ」という積極的な理由は、スコアとして弱い。中には「あてはまるものはない」という回答が高い割合を占めるカテゴリーもありました。

これは、消費者にとって「どれを選んでも大きく変わらない」状態に近い。だから価格や、たまたま目に入ったかどうかで選ばれてしまう。各社が持っているはずの「選ばれる理由」が、消費者の頭の中で”選ぶ基準”にまで翻訳されていないのです。

沖縄の食品・観光関連の事業では、地域性やストーリーを強みに掲げながら、結局は安売り競争に巻き込まれていく——というパターンがしばしば見られます。今回の調査は、その背景を数字の面から裏づけていました。強みが「選ばれる理由」として消費者に届いていないから、残るのは価格の勝負になる。良いものを作っているのに価格でしか戦えない、という消耗は、ここから生まれています。

なぜ沖縄の地元ブランドで、この壁が際立つのか

「思い出されない」「選ぶ理由が育たない」——これ自体は、どの地域のブランドにも起こりうることです。では、なぜ沖縄の地元ブランドでこの壁が際立つのでしょうか。

一つは、これまで沖縄の多くの地元ブランドが、県内という限られた市場の中で、地縁や口コミ、長年の付き合いに支えられて売れてきたという背景です。顔の見える関係の中では、わざわざ「思い出してもらう」設計をしなくても、商品は流れていきました。ところが近年、県外資本やチェーンの参入、量販店の棚をめぐる競争の激化、EC・観光という新しい販路の登場によって、その前提が崩れつつあります。地縁で売れていた時代の売り方のまま、「見知らぬ消費者に、買う瞬間に思い出してもらう」競争へと土俵が移ってしまった。この移行に、多くのブランドが対応しきれていません。

もう一つは、機会損失の側です。沖縄では、県内で消費されるはずのお金が域外の商品・チェーンに流れていく構造がしばしば指摘されます。裏を返せば、沖縄の地元ブランドが、県内消費者の「買う瞬間」にも、そして観光客や県外の沖縄出身者といった大きな需要の「買う瞬間」にも、まだ十分に思い出されていない——という伸びしろがそこにある、ということでもあります。

4つのカテゴリーは、同じ壁を「違う顔」で見せていた

ここまで、4カテゴリーに共通する構造を見てきました。ただ、面白いのは、同じ「想起の壁」でも、カテゴリーごとに現れ方がまったく違うことです。

沖縄料理レトルトでは、それは「スーパーの棚の前の一瞬」で決まる勝負として現れます。量販店の沖縄そばでは、「一度定番になると乗り換えが起きにくい習慣」の壁として。ローカルファストフードでは、旅行者が数ある選択肢から「その一食」を選ぶトーナメントとして。そして泡盛では、飲んだこともないのに敬遠されるという「先入観の壁」として——。

同じ構造でも、どこで・どう戦うかはカテゴリーによって異なります。自社がどのタイプの壁に直面しているのかを見極めることが、打ち手を考える出発点になります。それぞれのカテゴリーで何が起きているのかは、この記事に続く各記事で具体的に整理していきます。

この調査について、一点お断りしておきます。今回の調査は、各カテゴリーで400名から回答を得たものですが、性別・年代を均等に割り付けた厳密な統計調査ではなく、ブランドの「思い出されやすさ」の傾向をつかむための設計です。評価の項目も、各カテゴリーを外側から見た仮説にもとづいて設定しています(※)。ですから、ここで示した数字は「この業界にはこういう構造がある」という傾向として読んでいただくのが適切です。自社の実像に正確に照らすには、その業界を深く知る視点と、一度きりではない継続的な観測が欠かせません。裏を返せば、思い込みではなくデータで自社の立ち位置を確かめること自体が、多くの地元ブランドにとって、まだ手をつけられていない打ち手だとも言えます。

商品には自信がある。それなのに伸び悩んでいる。もしそうであれば、次に確かめるべきは商品の良し悪しではなく、「自社は、どんな場面で・どれだけ思い出されているか」という問いかもしれません。ここが見えてくると、広告を打つべきか、棚を増やすべきか、語り方を変えるべきか——という判断の順番が、ようやく定まってきます。

※参考にした調査手法:木村元『ブランド・パワー ブランド力を数値化する「マーケティングの新指標」』(翔泳社/MarkeZine BOOKS、2023年)。


【次のステップ】

ブランドを「収益に直結する戦略資産」として設計する進め方を、こちらの資料で整理しています。まず自社が「どんな場面で思い出されているか」を確かめてみたい方にとっての手がかりになります。


渡辺奎聖のポートレート写真

【著者プロフィール】

渡辺奎聖 Watanabe Keisei

・ 中小企業診断士(経済産業大臣登録)
・ 医業経営コンサルタント
・ 上級ウェブ解析士

「“沖縄発”のブランドを時代を切り開くシンボルに」を信条に、エビデンスに基づくマーケティングで地域経済の持続可能な成長を支援します。