沖縄を旅している人が、お昼どきにこうつぶやく場面を想像してみてください。「さて、今日は何を食べようか」。

頭に浮かぶ選択肢は、たくさんあります。ステーキ、タコライス、沖縄そば、沖縄風の天ぷら、アイス、ハンバーガー……。旅先の胃袋は一つで、食事の回数も限られています。その限られた一食に、どのお店が選ばれるのか。当社が実施したローカルファストフードのブランド調査は、この「旅先の食事選び」が、想像以上に厳しい競争であることを示していました。この記事では、その競争の中で選ばれるために何が必要かを整理します。

💡この記事で分かること

  • 沖縄旅行の「食事の一回」が、膨大な選択肢を奪い合うトーナメントである理由
  • 勝負が店頭ではなく「来店前・旅の計画段階」で決まる仕組み
  • 店舗数という制約を、来店前の想起でどう補うか
  • 「沖縄でしか食べられない体験」として思い出される、という考え方

沖縄の「一食」は、カテゴリーを越えた奪い合い

旅行者にとっての食事選びが、県民の日常の買い物と大きく違う点があります。それは、選択肢が同じカテゴリーの中だけで比べられないことです。

スーパーで沖縄そばを買う人は、たいてい「どの沖縄そばにするか」を考えます。けれど、旅先で「その一食」を選ぶ人は、「ローカルファストフードにするか、ステーキにするか、そばにするか、それともアイスで軽く済ませるか」というところから考えます。つまり、同じ土俵に並ぶのはライバル店だけではありません。まったく別ジャンルの食べものすべてが競争相手になる。これは、一つのブランド同士の勝負である前に、「そもそも、どのジャンルが選ばれるか」というトーナメントなのです。

この構造のもとでは、「自社はおいしい」だけでは選ばれません。おいしさを証明する前に、「今日はローカルフードにしよう」「あのゴーヤーの入ったバーガーを食べてみよう」と、数ある選択肢の中から思い出してもらう必要がある。消費者が買う瞬間に頭へ浮かべる選択肢は、ごく少数だと言われます。旅先の一食では、その少数の枠を、ありとあらゆるジャンルと奪い合うことになります。

調査でも、旅行者がこのカテゴリーを評価する軸は「味」「沖縄でしか食べられないメニューであること」「沖縄らしさ」に集中していました。

ローカルフードで重視する項目(カテゴリー全体)重視する人の割合の傾向
味がおいしいこと約57%
沖縄でしか食べられないメニューであること約48%
沖縄らしさを感じられること約47%
価格が手頃であること約28%
地元で長く愛されている有名店であること約25%

※沖縄ローカルファストフードについて当社が実施した消費者調査(過去3年以内に沖縄を訪れた県外在住者が対象、N=400)でみられた傾向(複数回答)。特定ブランドの数値ではなく、カテゴリー全体の傾向として示しています。

「味」と並んで、「沖縄でしか食べられない」「沖縄らしさ」という体験の項目が高く出ています。旅行者は、まず「沖縄らしい本物の体験がしたい」という気持ちでジャンルを選び、そのうえでブランドを選んでいる。この順番が、打ち手を考えるうえで重要になります。

勝負は、店の前ではなく「旅の計画段階」で決まっている

もう一つ、このカテゴリーには見落とされがちな特徴があります。それは、勝負が店頭ではなく、その手前——旅行を計画している段階で、かなりの部分まで決まっているということです。

店舗の前を偶然通りかかって入る、という来店もあるでしょう。けれど旅行者の多くは、限られた滞在時間の中で「どこで何を食べるか」を、旅行前や移動中にある程度思い描いています。ガイドを見て、SNSや動画で気になったお店を頭に入れて、「あそこに行ってみよう」と決めていく。つまり、旅先で思い出されるための下ごしらえは、来店のずっと前に始まっているのです。

ここが、これまで見てきた店頭で選ばれる商品と、決定的に違う点です。スーパーの棚なら、その場の見せ方で勝負できます。けれど旅行者の一食は、店の前に立つころにはもう「今日はあれを食べよう」と決まっていることが多い。だとすれば、力を注ぐべきは店頭の演出よりも、旅行者が計画を立てているその瞬間に思い出される状態をつくることになります。

このことは、店舗数が限られているブランドにとって、むしろ希望でもあります。県内にたくさん店を構えられなくても、旅行者が計画段階で参照する場所——旅行メディア、グルメの情報、旅の体験談やSNS——に「沖縄に来たら食べるべきローカルフード」として存在できれば、限られた店舗数という物理的な制約を、想起の力で補うことができます。店の数で勝てないぶんを、「思い出されること」で埋めるわけです。

「沖縄でしか食べられない体験」という、観光ならではの想起軸

沖縄のローカルファストフードが持つ最大の強みは、「沖縄でしか食べられない」という点にあります。全国どこにでもあるチェーンでは味わえない、その土地ならではの一品。これは、旅先で「沖縄らしい体験がしたい」と考える人にとって、強い引力になります。

観光は、沖縄にとって大きな市場機会です。ただし、その機会をそのまま追い風だと考えるのは危うい。観光客が増えているからといって、自社の一食が選ばれるとは限らないからです。選択肢が多いぶん、増えた旅行者の胃袋も、無数のジャンルとブランドに分散していきます。「観光が伸びているから大丈夫」ではなく、「増えた旅行者の限られた一食に、どうすれば自社が思い出されるか」という問いに答えられて初めて、観光需要が売上に変わります。

そして、旅行者の想起を取ることには、もう一つの意味があります。沖縄では、県内で使われるはずのお金が域外の商品やチェーンに流れていく、という構造がよく指摘されます。旅行者に「沖縄でしか食べられないもの」として選ばれることは、その流れに抗い、県外から来た需要を沖縄の地元ブランドがしっかり受けとめることでもあります。旅の思い出として語られ、SNSで共有され、「次に沖縄へ行ったらまた食べたい」と記憶に残る。その積み重ねが、店舗数だけでは届かない広がりをつくっていきます。

まず問い直したいのは、「旅の計画段階で思い出されているか」

沖縄のローカルファストフードは、一度来店して味わってもらえれば、満足され、また訪れてもらいやすいカテゴリーです。体験の力は、すでにあります。問題は、その体験にたどり着く前の、「数ある選択肢の中から思い出される」という関門です。

だからこそ、確かめたい問いがあります。自社は、旅行者が「今日は何を食べようか」と考えるその場面——多くは店の前ではなく、旅を計画している段階——で、きちんと思い出されているか。ここが見えてくると、店を増やすべきか、旅行者が見る情報の場に露出すべきか、体験として語られる仕掛けをつくるべきか、という打ち手の順番が定まってきます。

なぜ沖縄の地元ブランドの多くが、ジャンルを問わず「知られているのに選ばれない」という同じ壁に直面するのか。その共通構造は、[知られているのに選ばれない。沖縄の地元ブランドに共通する「想起」の壁]で整理しています。


【次のステップ】

多くの選択肢の中で思い出される状態を、どう設計するか。その考え方をこちらの資料でまとめています。まず自社が「どんな場面で思い出されているか」を整理してみたい方の手がかりになります。


渡辺奎聖のポートレート写真

【著者プロフィール】

渡辺奎聖 Watanabe Keisei

・ 中小企業診断士(経済産業大臣登録)
・ 医業経営コンサルタント
・ 上級ウェブ解析士

「“沖縄発”のブランドを時代を切り開くシンボルに」を信条に、エビデンスに基づくマーケティングで地域経済の持続可能な成長を支援します。

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