量販店向けの沖縄そばを手がけるメーカーの方から、こんな相談を受けることがあります。「県内には昔から親しまれている定番ブランドがある。うちの麺も味には自信があるが、棚ではいつも決まったブランドが選ばれてしまう。もっと知名度を上げれば、この壁を越えられるのだろうか」。

気持ちはよくわかります。けれど、当社のブランド調査が示したのは、少し意外な事実でした。沖縄そば(量販店向け)というカテゴリーでは、「知名度を上げれば売れる」という発想が、そのままでは通用しにくい。むしろ、このカテゴリー特有の戦い方があるのです。この記事では、その戦い方を整理します。

💡この記事で分かること

  • 「知名度を上げれば売れる」という考えが沖縄そばで通用しにくい理由
  • 一度定番になると乗り換えが起きにくい「習慣購買」という市場の性質
  • レガシーブランドを正面から追わずに勝つ、という考え方
  • 習慣が固まる前・習慣から外れる場面という、後発が入り込める余地

沖縄そばは「一度決めたら、乗り換えない」市場

調査で沖縄そばに際立っていたのは、購入した人がそのまま繰り返し買い続ける傾向の強さでした。一度「これ」と決めたブランドを、あれこれ試さずに買い続ける。いわゆる「目移り(バラエティ・シーキング)」が少ないカテゴリーだったのです。

これは、沖縄そばが県民にとって日常の食であることと深く関わっています。毎日のように食べるもの、いつもの味として食卓にあるものは、わざわざ別のブランドに変える理由がありません。「いつものあれ」で満足していれば、それが習慣として定着していきます。

この「習慣購買」という性質は、ブランドにとって諸刃の剣です。一度定番の座を取ったブランドにとっては、これほど強い堀はありません。放っておいても選ばれ続ける。一方、後発のブランドから見れば、これほど手強い壁もない。消費者はすでに「いつもの一つ」を持っていて、そこに不満がない限り、こちらに目を向ける理由がないからです。

だからこそ、知名度で正面から追いかけても崩れにくい。「うちのことをもっと知ってもらえば選ばれる」と考えて認知拡大に力を注いでも、相手が握っているのは知名度ではなく「習慣」だからです。習慣は、知られることではなく、一度でも選ばれて食卓に入り込むことでしか揺らぎません。

勝負は「棚の前の、最初の一回」に集約される

では、後発・中堅のブランドはどう戦えばよいのでしょうか。

鍵は、習慣がまだ固まっていない一瞬、あるいは習慣がふと外れる場面をとらえることです。沖縄そばの購買は、多くの場合スーパーの棚の前で起こります。定番を握られている状況で勝負できるのは、この「棚の前で、消費者が最初にこちらを手に取るかどうか」の一回。ここを逃さないことに、打ち手が集約されます。

調査では、消費者が沖縄そばを選ぶときの判断軸は「価格」「麺の食感」「麺のタイプ」といった基本条件に集中していました。そして注目したいのが、「あてはまるものはない」という回答の高さです。

沖縄そばを選ぶときに重視する項目(カテゴリー全体)重視する人の割合の傾向
価格が手頃であること約48%
麺の食感(コシ・もちもち感)約44%
麺の太さやタイプ(平麺・ちぢれなど)約40%
沖縄らしい本格的な味わいが感じられること約24%
(参考)あてはまるものはない約15%

※沖縄そば(量販店向け)カテゴリーで当社が実施した消費者調査(N=400)でみられた傾向(複数回答)。特定ブランドの数値ではなく、カテゴリー全体の傾向として示しています。

上位は「価格」「麺の食感」といった基本条件ばかりで、各ブランドならではの積極的な選択理由は弱い。しかも「あてはまるものはない」が一定の割合を占めている——これは「どれを選んでも大きく変わらない」と感じている人が少なくないことを示唆します。裏を返せば、棚の前で「なぜこの麺を選ぶのか」を瞬時に伝えられれば、まだ習慣を持たない層・定番に強くこだわっていない層を取り込む余地がある、ということです。消費者が買う瞬間に頭へ浮かぶ選択肢は、ごく少数です。その少数に、最初の一回で滑り込めるかどうか。

ここで大切なのが、定番ブランドを正面から追わない、という考え方です。「沖縄そばといえば、うち」を全県民の頭の中で狙う必要はありません。それよりも、自社が勝てる特定の場面に絞る。たとえば、まだ定番を持たない新しい世帯、引っ越してきたばかりの人、週末に家族の分をまとめ買いする場面、いつもと違うものを食べたくなる場面——こうした「習慣が固まる前」「習慣からふと外れる」瞬間です。こうした場面でこちらが選ばれ、一度満足してもらえれば、今度はそれが新しい習慣になる。習慣購買の強さは、後発にとっては壁であると同時に、いったん入り込めば自分の側の堀にもなるのです。

県内で長く続いてきた競争が、動きはじめている

沖縄そばは、県内という市場の中で、地元に根づいたブランドが長く親しまれてきたカテゴリーです。県民の食習慣に深く組み込まれ、いわば県内で完結した競争が続いてきました。だからこそ「習慣」が強く効くのですが、その前提が、いま少しずつ動いています。

量販店の棚は、県外資本の流通品や新しい商品が入り込む場でもあります。世代交代も進み、親の代からの「いつものそば」を受け継がない新しい世帯も生まれています。こうした変化は、定番を握るブランドにとっては習慣が揺らぐリスクであり、後発にとっては新しい習慣が形づくられる好機です。「地縁と昔からの付き合いで棚が決まっていた」時代から、「棚の前で消費者が改めて選ぶ」時代へと、静かに移りつつある。この移行期こそ、後発が習慣に入り込む数少ない窓になります。

もっとも、この窓は自然に開いてはくれません。「習慣が変わりつつあるから、そのうちうちにもチャンスが来る」と待つのは、外部環境の変化に自社の成長を委ねてしまう発想です。窓が開く場面を具体的に見定め、そこで確実に選ばれる準備をしておくこと。受け身で待つのと、狙って取りに行くのとでは、同じ変化でも結果がまるで変わってきます。

まず見極めたいのは、「どの場面でなら勝てるか」

沖縄そばは、一度買ってもらえれば満足され、そのまま習慣として買い続けてもらえるカテゴリーです。商品の力は、すでにあります。問題は、その「最初の一回」をどこで取るか。

定番と全面的に張り合うのではなく、自社が勝てる場面はどこか——まだ習慣を持たない層か、習慣が外れる特定の場面か——を見極めることが出発点になります。ここが定まると、棚での見せ方も、伝えるべきメッセージも、狙うべき売り場も、おのずと絞られてきます。

なぜ沖縄そばに限らず、沖縄の地元ブランドの多くが「知られているのに選ばれない」という同じ壁に直面するのか。その共通構造は、[知られているのに選ばれない。沖縄の地元ブランドに共通する「想起」の壁]で整理しています。


【次のステップ】

事業全体を俯瞰し、自社が勝てる場面(ボトルネック)を特定するためのフレームワークを、こちらの資料でまとめています。「どこで戦うか」を一度整理してみたい方の手がかりになります。


渡辺奎聖のポートレート写真

【著者プロフィール】

渡辺奎聖 Watanabe Keisei

・ 中小企業診断士(経済産業大臣登録)
・ 医業経営コンサルタント
・ 上級ウェブ解析士

「“沖縄発”のブランドを時代を切り開くシンボルに」を信条に、エビデンスに基づくマーケティングで地域経済の持続可能な成長を支援します。

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