泡盛の造り手の方から、よくこんな悩みを聞きます。「うちの泡盛は、飲んでくれた人からの評判はいい。でも、若い世代がそもそも泡盛を飲まない。地元では知られているけれど、島の外ではほとんど無名。いったい、何から手をつければいいのか」。
「知られていないから売れない」。多くの場合、私たちはそう考えます。ところが、当社が実施した泡盛のブランド調査は、その常識をくつがえす事実を示していました。若い世代に泡盛が届かない本当の理由は、知られていないことではなかったのです。この記事では、その意外な壁の正体と、越え方を整理します。
💡この記事で分かること
- 泡盛が若い世代に届かない理由が「知名度不足」ではないという発見
- 飲んだこともないのに敬遠される、「先入観の壁」という構造
- カテゴリー全体の負の印象と、一社にできることの切り分け方
- 地元から本島、県外へと同心円で広げる、という順序の考え方
「知らないのに嫌い」という、不思議な壁
調査で最も驚いたのは、若い世代の反応でした。
泡盛のブランドをほとんど認知していない——つまり、名前も中身もよく知らないはずの若い層で、「好きではない」という否定的な評価が、はっきりと高く出ていたのです。飲んだことも、きちんと知ったこともないのに、あらかじめ「自分向けではない」と決めている。これは、味やブランドを体験したうえでの評価ではありません。体験する前の、先入観による拒否です。
ある中小ブランドについて聞いた結果には、それが象徴的に表れていました。
| 20代の反応(ある中小泡盛ブランドへのイメージ) | 傾向 |
|---|---|
| そのブランドを自発的に思い出せる人 | ほぼいない(認知はごく低い) |
| それでも「全く好きではない」と答えた人 | 男性で約6割、女性で約4割 |
※泡盛カテゴリーで当社が実施した消費者調査(N=400)でみられた傾向。20代は該当する回答者数が少なく、あくまで傾向を示すものとしてお読みください。特定ブランドを推奨・批判する意図はありません。
知らないはずなのに、拒否だけははっきりある。これは、そのブランド固有の評価というより、泡盛というお酒そのものへの身構えが表れたものと考えるほうが自然です。
ここが、他の食品や飲料と大きく違うところです。ふつう、選ばれないブランドは「知られていない」か「試したけれど選ばれなかった」かのどちらかです。ところが泡盛の場合、その手前に「知る前から敬遠されている」という第三の壁があった。知名度を上げれば解決する、という話ではないのです。むしろ、下手に知られることが、この先入観をなぞってしまう可能性すらあります。
そして重要なのは、この先入観の多くが、個々のブランドに向けられたものではない、ということです。「この銘柄が嫌い」なのではなく、「泡盛というお酒が、なんとなく自分向けではない」。つまり、一つひとつのブランドは、泡盛というカテゴリー全体が背負っている負の印象を、いわば連帯して引き受けている。ここを取り違えると、打ち手を見誤ります。
カテゴリー全体の課題と、一社にできることを切り分ける
「泡盛離れ」は、若い世代の生活やお酒の好みの変化とも結びついた、カテゴリー全体の大きな流れです。これは、一つの蔵が背負って解決できる問題ではありません。業界全体で向き合うべき課題を、自社だけで何とかしようとすると、力の入れどころを見失ってしまいます。
だからこそ、切り分けが要ります。カテゴリー全体の逆風は前提として受けとめたうえで、「その中で、自社にできることは何か」に論点を絞る。ここで手がかりになるのが、同じ調査が示したもう一つの事実です。実際に飲んだ人は、満足し、ファンになり、また選んでくれる。商品の力そのものは、じゅうぶんにある。つまり問題は、「飲んでもらう前の先入観」という、たった一つの関門に集約されているのです。
とすれば、一社が向き合うべきは、カテゴリー全体を啓蒙することではなく、「先入観を持ったままの人に、どうやって最初の一杯を届けるか」という一点になります。この最初の一杯さえ届けば、あとは商品の力が仕事をしてくれる。そういう構造だからです。
その最初の一杯の入口として、たとえば、泡盛そのものに身構えている人でも手に取りやすい、飲みやすさを前面に出した商品や、これまでの泡盛のイメージから離れた新しい楽しみ方が、きっかけになりえます。「泡盛はきつくて自分には向かない」という先入観を、「これなら飲める」という体験でそっと裏切る。独自の商品を、通好みの珍しさとして語るのではなく、「飲みやすさ」という誰にとっても入りやすい価値に翻訳して差し出す。その一杯が、閉じていた扉を開ける鍵になります。
地元から、同心円で広げていく
もう一つ、泡盛、とりわけ島で造られるブランドには、固有の地理的な事情があります。それは、市場が地元の島の中に閉じやすい、ということです。
島の中では知られていても、沖縄本島へ、さらに県外へと出ていくにつれて、認知も想起も急速に細くなっていく。この「島の外への染み出しにくさ」は、離島という条件から来る構造的なものです。だからこそ、広げ方には順序が要ります。いきなり全国を狙うのではなく、まず地元の島でゆるぎない存在になり、次に沖縄本島の飲食店や土産の場へ、そして県外へ——という同心円で、一段ずつ想起の輪を広げていく考え方です。
この同心円を広げるうえで、沖縄ならではの接点が助けになります。旅行者が空港や土産店、宿泊先や居酒屋で「その土地のお酒」と出会う瞬間は、地元の外へ染み出す貴重な入口です。旅先では、日常なら選ばない一杯に、人は案外手を伸ばすものです。県外の消費に流れがちなお金の向きを少しでも地元側に引き寄せるという意味でも、この旅行者との接点は、島のブランドにとって見逃せない同心円の広げどころになります。
ただし、順序を飛ばして外側から攻めても、足元が固まっていなければ広がりは続きません。「県外で話題になれば一気に売れる」と外の流行を当てにするより、まず地元で確かな一杯として選ばれ続ける足場をつくること。そのうえで、一段ずつ外へ。急がば回れが、島のブランドには効いてきます。
まず見極めたいのは、越えるべき壁が「無名」か「先入観」か
泡盛は、一度飲んでもらえれば満足され、ファンになってもらえるお酒です。商品の力は、すでにあります。問題は、その一杯にたどり着く前の壁が、いったい何なのかを正しく見極めることです。
自社が越えるべきなのは、「まだ知られていない」という無名の壁なのか、それとも「知られる前に敬遠されている」という先入観の壁なのか。この二つは、まったく別の打ち手を必要とします。ここを取り違えると、知名度を上げる努力が、かえって先入観をなぞってしまうことにもなりかねません。壁の正体が見えてくると、最初の一杯をどこで・誰に・どう届けるか、という道筋が定まってきます。
なぜ泡盛に限らず、沖縄の地元ブランドの多くが「知られているのに選ばれない」という壁に直面するのか。その共通構造は、[知られているのに選ばれない。沖縄の地元ブランドに共通する「想起」の壁]で整理しています。
【次のステップ】
先入観を超えて「選ばれる理由」を届けるための設計の考え方を、こちらの資料でまとめています。まず自社が越えるべき壁は何かを整理してみたい方の手がかりになります。

【著者プロフィール】
渡辺奎聖 Watanabe Keisei
・ 中小企業診断士(経済産業大臣登録)
・ 医業経営コンサルタント
・ 上級ウェブ解析士
「“沖縄発”のブランドを時代を切り開くシンボルに」を信条に、エビデンスに基づくマーケティングで地域経済の持続可能な成長を支援します。
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